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宮崎県北居酒屋巡り~呑むぞ今夜も延岡・日向で~

【春の日向の酒肴を求めてぶらり旅】池波和彦のまいぷれ「延岡・日向市」おいしい旅の酒【番外編】

旅情あふれる日向市の人や味

日向市の若あゆは色っぽい。

 

羽田発宮崎行きの機内は背広の男たちで満席だった。
離陸時刻になり、私の前の補助席にキャビンアテンダントが座った。
たまには話しかけてみたい。
「満員ですね、学会かな」
「どうでしょう」
「僕らは日向市に酒飲みに行くんですよ」
「あら、そうですか」
キャビンアテンダントは視線をはずし下を向いて黙った。
つまらない事を言ってしまった。
相棒が「バカ」と私を見る。
「フン」私は目を瞑り睡眠態勢に入った。
宮崎空港から特急ひゅうが2号に乗った。
ぷーん。
汽笛一声、日豊本線特急列車はゆっくりと車輪を回しはじめ、次第にスピードを上げてゆく。
「うー、おれはまだ眠いや」
「おいらもだ。ちょっと失礼、ひと眠り」
「毎度御乗車有り難うございます。切符を拝見いたします」
「るせいなあ……、あれ……、おや」
相棒は切符を探し始めた。
上着を脱ぎ裏表を調べ、立ち上がりズボンの隅々を探り、大きなカバンの中身を全部ぶちまけた。
着替え、傘、ゲーム機にカメラに地図、キャベジンに膏薬、道中守り札に笛まである。
「ずいぶんいろいろ持ってきたねー」
「いつ追い剥ぎに遭うかわからんからな」
「なんで笛があるんだ」
「身ぐるみ剥がされたらこれ吹いて、御足を頂く」
もう追い剥ぎに遭ったようでズボンまで脱ぎかねない。
「後ほどで結構です」
車掌は行ってしまった。
「あ、あった、あったあった。こんなとこに隠れてた」
相棒の切符がズボンのポケットから出てきた。
「一番あるべきところだな」
「そこが不思議だ。あーおいらもう疲れた。旅慣れないとこのとおりだ」
日豊本線特急ひゅうが2号はポカポカ陽気を一路北へーー。
たどりついた日向市駅は駅前に芝生があり、快晴の空は東京に較べ日射しが強く、南国らしいぎっしり茂った街路樹の葉は濃い。
「アー腹へった。昼飯どうする」
「よーし、うまそうな店探すぞ」
入ったのは、食べなれた地元の人の通う店という(不二かつ 日向本店)。
「ビールとひと口かつ定食」
「僕はエビフライ」
ビールが届き、何となく「じゃ」と乾杯のポーズをとり、ングングング……。
このビールほどうまいものはない。【あー、また行きたくなってきた】
「おまちどおさま」
届いたひと口かつ定食は軽い衣、厚い豚肉はすっと歯が入りとてもおいしい。
ごちそうさま、おいしかったです。
良い店に出会えて今夜の居酒屋めぐりに期待が高まる。
出陣前にいったんホテルに入りしばらく体を休めておくことにした。

 

日向市のはしご酒のはじまりはじまり。
昼に目星をつけておいた(これのり)にまず入った。
まだ客はなく店内が明るい。
「いらっしゃいませ」
女将さんがにこやかに迎えてくれた。
「すみませーん、焼酎ください」
宮崎県に来たら焼酎だ。
徳利で届いた「木挽」は淡麗で香り高く飽きない味。
「うまいなー、焼酎」
「いいね、カラッとして男らしい」
「日本酒のうまさはどこか自慢気だろ」
「それそれ、それだよ」
俺を指さすな。
まあいいや。
ここの名物は「若あゆ みそ焼」だ。
自家製味噌を塗り炉で焼き上げた「若あゆ みそ焼」は、いい匂いのする熱々の焦げ味噌が絶妙でたいへんおいしい。
飲み屋街のはずれの何気ない場所に黙ってこれだけの料理を出す店がある。
日向市にはひっそりとレベルの高い店があることを感じて店を出た。
さあて。
上町、八幡通り周辺が日向市の飲食街だ。
早くもどっぷりと夜になり、寿司勝、スナックひまわり、和風スナック寿海、お食事処あすか、とん平、鳥将軍などぽつりぽつり灯る電飾看板がいかにもわびしい酒場通りだ。
「小料理と癒しの酒場 3びきのこぶた、か」相棒が感心したように音読している。
隣はかなり古い木造モルタル2階建ての雑居ビルでカラオケがきこえてくる。
それでは、と見わたしたすぐそこの居酒屋(炉ばた焼八幡)はよさそうだ。
炉ばた焼とビールもいいかな。
店内は広々として活気がある。
店の名物という「イワシ尾引」をポン酢で注文した。
届いた「イワシ尾引」は手開きしたのが4切れ【2尾】。
新鮮なイワシは生臭みは全くなく身もぴんとしまって実にうまい。
ひと気のない日向市の飲み屋街だが、どこからともなく客が次々と訪れ大盛況だ。

満足して店を出て、昼間のぞいた店を思い出した。
丁度よい、あそこで燗酒を一杯やろう。
戸を開けると客はいなく小さなカウンターに腰をおろした。
「昼間のぞいた人でしょう」
「ああそうだよ」
「じろじろ見まわして帰るなんてへんな人だと思ったよ」
「……そりゃ失礼。営業前だったからさ」
突出しは糠漬けだ。
「ほほう、糠漬けはいいな」
「うるさそうな客だねえ」
菅井きんに似た婆ちゃんは何だか虫の居所が悪そうだ。
「酒、お燗でね」
「燗はできないよ」
え、なんだよ。
べつに銘酒居酒屋でもないし、棚には徳利も並んでいる。
指さすと、「もう十年も使ってないよ、ウチは燗する客なんかいないんだから」
どうも付慳道だ。
一体それほどの酒かな。
「酒は何?」
「西の関、大分の酒だよ。国東市にある萱島酒造の酒でおいしいんだから」
知ってるよそんなこと。
西の関は大分の名酒で、大吟醸秘伝古酒を東京の酒場で飲んだ。
俺様を誰だと思ってるんだ、と言ってやろうとしたがバカらしい。
吟醸かもと「ちょっと瓶みせて」と言うとびっくりしたように「嘘だと思うのかい!」とあわててひっこめた。
西の関の本醸造か普通酒のようだ。
これなら燗酒にぴったりだ。
「疑り深い人だねぇ、女にもてないよ」
「ウルセー、婆ァ」喉まで出たが相手はお年寄、下手に出るしかない。
なんで?と理屈言ってもはじまらない。
「まあそんなこと言わずにさ、一本だけ」
「しつこいねぇ、あんた酒知らないね」
……知らねぇよ。
仕方がない出よう、と思う間にトプトプとコップに注ぎはじめた。
ここはトロロが名物らしい。
「トロロが名物なの?」
「うちのトロロはおろし金じゃないよ」と後ろに下がるスリコギの一本を手にとった。
木は山椒でもうかなり短い。
「何年も使うとここまで短くなるよ。あんたたちだってすぐこうなるさ」
……全く口の減らない婆ァだ。
憮然と黙ると気まずさを感じたのか向こうから口を開いた。
「あんたたち、どこの工事?」
コージ?ははぁ工事現場労働者と思われたか。
それならそれでいい。
「ダム」
「会社でパッとしないのは酒の席でもパッとしないね」
こりゃダメだ。
相棒はカウンターに突っ伏しているが明らかに狸寝入りで、触らぬ神をきめこんでる。
「帰るよ」
「わかってるよ、どうせ様子見に来ただけだろ」
5000円渡すと釣りを30円よこした。
まいったまいった。
酒知らなくて悪うござんした。
泣く子と婆ァには勝てない。
「なんで狸寝入りしてるんだよー」
「だって顔見りゃ判るじゃない」
「だからって……」
こっちがケンカすることはない。

それから(根来)(旬菜や)と渡り歩いた。
腹はとうにいっぱい、酒も効いてきたが、満腹したからもうホテルに帰るというものではない。
次々に店を品定めしながら、知らない地方の夜の町をあてどなく徘徊すること自体が面白い。
酒が入れば度胸もつく。
客引きの兄さんに軽口を叩き店を教わりチップを握らす。
故郷もしがらみも捨てた一夜の流れ者になる快感が、私の何かをよみがえらせた。
もちろん良い店に当たったときは至福となり、二晩続けて行くこともあった。
それでは次第に店を見つけるコツを覚えていったかというと、そうでもあり、そうでもなく、外観だけで「この店は、はずれだよ」と決めつけたものの未練が残り、再び戻って入り、案外良かったり、案の定だったり、つまりは入ってみないと気がすまないのだった。【あー、今すぐ行きたい】
こうして失敗したり喜んだり、東京の本業も家族も忘れた、あきれた珍道中が続いていったのだ。

↑日向市のメインの飲み屋通り【八幡通り】は渋くていい店が点在している

↑(これのり)の若あゆ味噌焼。この美事な若あゆに刮目せよ!

↑南九州では焼酎は庶民の酒。どこも徳利で供されるのがいい

↑焼酎バーの主人にすすめられた(岩ラーメン)の一杯。はしご酒のシメにおすすめだ

◆この記事を書いたひと

 

酒場ライター:居酒屋伝道師・池波和彦

 

東京生まれ東京育ち。酒場巡りを趣味とし、北は北海道の離島から南は沖縄の離島まで新規7000軒以上の店を巡りブログ「日本の酒場をゆく」を執筆。毎夜全国の居酒屋やバーにて神出鬼没の酒戦の日々を過ごす痛飲派。

 

ブログ「日本の酒場をゆく」↓

https://ameblo.jp/m458itmasa/

※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。

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